伝道

　そんなろくでもない一週間だったわけですが、もうひとつ、『権力』というものの怖さを思い知らされた一週間でもありました。能力だとか、キャリアだとかに応じて、然るべき人物が『権力』を持つのは、それは当たり前なんですけど、その行使の仕方ですよね。
　
　
　このまえ書いたと思うんですけど、僕の隣の席の男っていうのが、ものすごく嫌われてて、僕も嫌いなんですけど、特に女性陣からのうけが悪くてですね、そりゃあまあ、男の僕から見ても気持ち悪ーいのに、女性からしたら、相当に受け付けないでしょうね。
　

　んでまあ、女性陣が、上司と酒を飲みに行ったと。先週の土曜日ですか。そしたら、思いのほか酒が進み、上司にそいつのことを漏らしてしまったと。上司からしてみれば、その男よりも、女性陣のゴキゲンが斜めであるということのほうが重要だったようで、日曜をはさんで月曜日に、その男に、とってつけたような理由をこじつけて異動を告げ、水曜日にはもうそいつ、女性陣の視界にも入らないような遠い場所へ行ってしまいましたよ。ようするにそいつ、ゴキゲン取りのために、心の準備も整わないまま、放出されたわけです。
　

　まあね、隣の席の僕が一番せいせいしたっていうのもね、事実といえば事実なんですけどね、その展開の早さにちょっとひいてるっていうのも事実なんですよね。なんちゅうか、女性の怖さを目の当たりにしたというか。そう、その上司も女性です。女性陣は、何事もなかったかのように、晴れ晴れとはたらいてますし、上司には、『よかったね、小西君』みたいなこと言われるし、そのドライさには、戦慄を憶えます。
　

　もしも、自分が遠くへ飛ばされる立場だとしたら、辞めちまいますね、なんてことを思ってしまうんですよ。
　

　まあねえ、誰が悪いかっていったら、その男が悪いんでしょうけどね。僕よりも年上ですけど、おそらく、生まれてからずっとこのかた、そうやって、気持ち悪がられてきたんだろうなあ。
　

　とにかくまあ女々しくて、『酒飲みに行きましょうよ』って、それさえも言い出せなくて、自分の仕事が終わってるのに、誰かが言い出すのをジーッと待ち続けてるんですよ、３０分くらいなら平気なんです、彼。それが毎日ですよ、毎日!!終業間近になれば、毎日毎日、何か言いたげな、奥歯に物が挟まったかのような表情で、僕らのほうを見てるんですよ。それに、ミョーな加齢臭みたいなのも漂ってくるし、抜け毛が僕の席まで来るし、口くさいし、フケが積もってるし、ああ枚挙に暇がない。あとまあ、前も書いた、気持ちの悪い妄想で、ゾッとさせられるし。あれが、やつの株をどん底まで落とす決定打になったんですけどね。まああの話も後日談というか、実にしょーもない終わり方をするんですけどね、もう面倒くさいから書きません。もし、興味をもったならば、直接問い合わせてください。
　

　改めて考えると、やっぱりいやだよなあ。まずね、飲みに行きたければ、一言『行きましょうよ』って言えばいいじゃないか!!いやまあ、誘われても行かないんですけどね。だってあいつと飲んでてもまったく面白くないんですもの。そいつが一人いるだけで、酒の席が沈黙に包まれたりするんですよ。
　

　それでもまあ、飲めない僕だって、たまには『飲みに行きたいなあ』って思うときがあるわけで、そういう時は、そいつにばれないように、細心の注意を払って、こそこそと飲みに行かなければならないでしょ、そんなさあ、たかが笑笑に行くだけで、神経ものすごくすり減らして、ちょっとした罪悪感も憶えたりして、本当に面倒くさかったんですよ。
　

　これからは、そいつに気を使わなくとも、堂々と酒を飲みにいける!!!って、嬉しいんですけど、なんだか、釈然としない『ＷＯＭＡＮ　ＩＳ　怖い』っていう気持ちしか残っていないんですよね。